民事訴訟法第231条(出国停止処置)に関するトラブル

最近STCCの応対電話に中国各地の空港から日本人の電話が多くなっています。

 

その内容のほとんどが「出国させてくれない」と言うもの。

 

事情を聞くと中には心当たりがある方も居ますが、心当たりがないと言う方も居ました。

 

電話の後、当方は毎回、担当官に裏から電話するのですが、その出国停止理由が民事訴訟法第231条によるものとのことです。

 

民事訴訟法第231条・・・普通に中国で仕事をし生活している分には聞く事のない法律です。そこでこの条項に関して説明いたします。

 

民事訴訟法第231条の一部(和訳)
被執行人は法律文書に定めた義務を履行しない場合、人民法院は出国を制限あるいは関係機関に通達を出し出国制限の協力を要請することができる。

 

というものです。

 

この第231条の司法的解釈としての適応範囲は、出国制限される者の具体的範囲としては被執行人が法人あるいはその他組織であった場合、法定代表人、主要責任者のみならず、財務担当者等の債務の履行に直接責任を負うものを含む

 

つまり売掛金があったり、残債務があったりして、債権者が民事訴訟を行っていた場合、裁判所は被告の出国を制限できると言うものです

 

しかし当方にかかってくる緊急電話の中には当然わかってて日本に逃げようとする方も居ましたが、最近の傾向として、身に覚えがないと言う方も増えています。

 

その身に覚えのない方の中には総経理でありながら、自社の財務に無関心で知らなかったと言う方も居ますが、中には財務担当も知らないと言う事例が発生しています。

 

この身に覚えがないと言う部分に注目しますと、当方の調べでわかったことは

 

1、身に覚えの無い借金の債務不履行

 

2、商標権侵害による賠償命令の不履行

 

3、労働問題に関する裁判所命令の不履行

 

などが発見されました。

 

しかし当事者は「訴状および開廷伝票も来た覚えが無いと言います。そこで上記3つについて解説します。

 

1、身に覚えの無い借金の債務不履行

これは当方の調べで、現地採用した日本人がお金に困り、会社の印鑑を使って勝手に借用書を作成し、中国人の友人からお金を借りていました。

この日本人はその後、会社を退職し、行方不明。そこでこの中国人がこの会社を提訴。裁判所は営業許可証の住所に対し、訴状および開廷伝票を特別送達しましたが、実はこの会社は営業許可証の住所と実際の事務所が違かった為、そのまま公示になり、被告不在で公示判決。同時に裁判所はこの会社の法定代表人と財務担当、総経理に対し民事訴訟法第231条を適用しました。

 

2、商標権侵害による賠償命令の不履行

これは当方の調べで、某中国企業が日系A社の主力商品名を、中国大陸で商標登録。日系A社は香港にて商標登録していましたが、中国と香港では商標の管轄が違うことに気がつかず、6年放置。その結果、某中国企業は日系A社に対して商標権侵害による賠償裁判を提訴。

しかし日系A社は香港で商標を取っているということ、またこのA社の法務顧問が日本の弁護士だったため、中国の法律に疎かったことが災いし、この提訴を無視。逆に商標の取り消し要求の裁判を準備していました。しかし、無視していたことが災いし、公示裁判となり、被告不在のまま250万元の賠償請求が成立していました。

その為、裁判所はA社董事長、総経理に対し民事訴訟法第231条を適用しました。

 

3、労働問題に関する裁判所命令の不履行

中国人従業員の解雇に伴い、元中国人従業員が労働仲裁委員会に提訴。15000元の支払い命令が出ていました。しかしこの日系企業は中国人従業員の不当行為を主張。その為、支払い命令を無視し、元中国人従業員は仲裁委員会の命令書を持って、地元人民法院に提訴。それと同時に民事訴訟法第231条の適用を要請し、法院は過去の支払い命令の無視と言う実績から、適用を認める。

というものでした。他の事例もほぼこのような感じです。

 

一度民事訴訟法第231条が適用されてしまうと、事情等は関係なく出国停止になり、債務、命令、支払いを履行しない限り、日本に帰国することはできません。

 

これはチャイナリスクの一つかもしれませんが、防衛策としては、自社の印鑑の管理、財務状況の把握、同業他社とくに中国企業との対立の有無、各種権利の監視と管理、中国人との揉め事の有無をしっかり把握し、トラブルを未然に防ぐ努力が必要になります。

 

会社を経営すれば、借金や掛売り、労働問題、権利問題は必然的に発生するものです。

 

十分に気をつけてください