KTV小姐による産業スパイの変化

●情報

 

経済の減速、景気低迷の中国では、産業スパイの様相も変化しているようだ。

以前なら日本人エンジニアの買収したり、設計図などを盗み出すようにKTV小姐を使って弱みを握って脅迫したり、中国のローカルメーカーの女性社員がKTV小姐に扮して日本人に近づき、うまくその会社に就職できるように取り入って入社。内部に侵入して情報を流すというのが主流であったが、最近はその形も変化してきている。

最近あった事件からその全貌が姿を現した。

 

これは最近縁むすび7号店の小姐の間で流行っている金稼ぎである。

昨年末に小姐の脅迫に関する相談があった。当初はいつも通りの脅迫事件かと思っていた。ただこの事件に関しては既に末期状態で、どうする事もできない情況までいっていた。

相談者も、相談に至る前に自身で色々頑張ったようで、既にめちゃくちゃな情況になっていた。

日系の弁護士も入って、10万元で和解してお金を渡していた。

しかし小姐の脅迫は止まる事は無かった。

 

そもそも小姐にとって弁護士が入る事は非常に喜ばしい事だからだ。

弁護士は40万元請求する小姐がいたとして、10万元で和解すれば事実上の勝ちと考え報酬も入る。

本来であれば払う必要の無い金である。しかし弁護士はこのような解決をするから、小姐からすれば「弁護士が出てくる=少なくとも金が入る」という考えなのだ。

しかも弁護士は和解書を作成するが、別にこの和解書を無視しても何もしてこない。だから小姐にとって弁護士は感謝でしかないのだ。

この相談者も弁護士を入れて10万元を渡していたが、脅迫が止まる気配は無い。

そこでSTCCに相談に来たのだ。

弁護士で既に和解し、脅迫が止まらず相談に来る方は非常に多い。我々もいつもの事かと思っていた。

しかし依頼を受けて対応するうちに、いつもの脅迫とは違う事に気が付いた。

いつもなら更なる金の要求で、対応もちょっと工夫すればすぐに解決なのだが、この小姐は違った。金の要求はほとんど無く、執拗に会社に攻撃を加えるのだ。

まるでこの日本人を帰国させる事が目的であるかのようだった。

最初は怒りからやっているのかとも思ったが、それもまた違う。金は希望より少ないとはいえ、弁護士のおかげで10万元も手に入れている。そこまで執拗に攻撃する理由がわからなかった。

そこでまずは調査を行う事にした。

 

小姐の背後関係を調べていくうちに、あるWechatのアカウントに到着した。

このアカウントを調査すると、企業アカウントで、ローカルのコンサル会社であった。

さらに調べていくと驚くべき事が判明した。

このアカウントは多くの縁むすび7号店の小姐とつながっており、この会社の運営にも元7号店の小姐が関わっていた。

このコンサル会社の7号店小姐への宣伝は以下のとおりである。

「日本人の名刺情報買います。さらに協力いただければ高額報酬あり」と言うものであった。

KTV小姐が名刺情報を売るというのは良くある事である。しかしそのあとの「協力」が気になる。

そこで潜入調査を行い、驚くべき事が判明した。

コンタクトに成功すると、向こうから複数の社名の指定があった。

「○○会社の経理部長は客ですか?」「△△会社の技術部長は客ですか?」「□□企業の総経理は客ですか」など、小出しに連絡が入った。

そこで「これらは客ではない」と回答すると、今度は画像化された企業リストが送られてきた。

そこには日本人なら誰でも知っている企業やメーカー名が並んでいた。中には役職と名前まで入っているものもあった。

そこで試しに「××会社の○○さんは客です」と送ると、向こうからは来店頻度、使用金額などを聞いてきた。

相手に太客と思わせるために回答すると「この日本人を帰国させれば5万元、退職させてこちらが指定する企業に就職させれば8万元の報酬」と返事が来た。

理由を聞くと「某中国メーカーからの依頼です」とだけあった。

どうすれば良いかを聞くと「店の○○ママ(チーママ名)にうちの社名を言えば、全て指導してくれます」とあった。

さすがにこれ以上はまずいと思い、このコンサル会社のアカウントをブラック登録したが、要約するとこういうことだ、

 

7号店の小姐を使って、日本企業や日本人情報を入手。中国メーカーから依頼を受けて情報を盗ませたりする。昨今は情報管理の強化やクラウド化等から、機密情報を盗めないと判断すると、中国メーカーは対象の日系企業の競争力を落とすためにスキャンダルを掴んだり、核となる日本人を帰国や解雇させて、日系企業の競争力を低下させる。

且つ小姐にはまっている日本人をその恋愛感情を使って帰国したくないと思うように持っていき、中国に残れるからといって会社を退職させ、中国メーカーに就職させるというものであった。

中国メーカーからすればヘッドハンティングするより格安で技術者を手に入れたり、格安で日系企業の競争力をそぎ落とす事ができるというわけだ。

しかも小姐はいろいろな理由で対象と喧嘩別れをし、脅迫を行う。日系企業や日本人ならすぐに弁護士に頼む事を知っている彼女たちは、先に述べたように弁護士が入れば少なからず金を手に入れられる。

小姐は脅迫による金と、このコンサル会社からの報酬が手に入るというわけだ。

結果として中国企業への就職は難しくなるが、小姐からすればある程度のまとまった金が手に入るので、そんなのは関係ないのだ。

 

非常に恐ろしい事である。

しかも脅迫方法は店のママが指導しているという。店は「店以外での小姐と客の事は関係ない」といつも脅迫対応で言われるが、店のママ(チーママ)が指導しているとあれば、店が関係ないというわけにはいかないだろう。

全ての小姐がこういうことをしているわけではないと思うが、近年の7号店の小姐に関する相談件数の急激な増加を考えると、このようなことが2014年から行われていたのではないだろうか。

 

以前からKTV小姐による産業スパイはあった。公安もKTV小姐を利用していた時期もあった。でもかつてはほんの一部の小姐だけであった。

しかし、今回の調査でこのようなことが金を求める小姐に広まっている事がわかった。KTVはいまや娯楽ではなく、リスクでしかないと考えざるおえない。

 

今回は縁むすび7号店の小姐であったが、当然他の店にも広まっている可能性はある。

いまやKTV小姐の脅迫事件は個人の問題だけでは無く、会社にも影響するようになってきている。理想はこういう店には行かないことだが、そうもいかないのも事実である。

 

このような店を利用する場合は、きちんと店を選び、リスクに関する意識を持って利用してもらいたいものだ。

自分の指名の小姐は他の小姐とは違うと考えるのではなく、自分の指名小姐も可能性があると危機感をもって接するべきだと思う。